◆実証研究の詳細
本実証研究では、近年日本でも患者数が増加傾向にあるものの、完治が困難で長期にわたっての治療が必要なため新薬開発が望まれている炎症性腸疾患(IBD)の患者さんを対象としました。IBDの発症には、食事などの環境要因と遺伝要因のどちらも関係しているとされていますが、発症原因は特定されておりません。
本実証研究では3~4カ月という短期間において計100名の患者さんを対象とした遺伝情報や臨床情報のデータベース構築に成功しております。これまでの大規模な遺伝的な研究※にて報告されておりますIBDの発症リスクに関連している多数の遺伝子を統合したスコア(多遺伝子リスクスコア、注1)を計算し、収集したIBD患者さんのスコアを確認したところ、想定通りIBDの患者さんは多遺伝子リスクスコアが大きい傾向となっており、4分の1以上の患者さんが上位10%の高リスクスコア集団に属しておりました(図1)。また、遺伝情報以外にも疾患症状や様々な薬の服薬状況、IBD発症に関わる生活習慣などの情報も取得しております (図2)。さらに、治験や臨床試験への参加意欲や本研究結果に対する興味が高い患者さんが95%とほとんどのため、再度コミュニケーションを行うことで新たな情報を取得することも可能となっております(図3)。
※Liu JZ, van Sommeren S, Huang H, et al. Association analyses identify 38 susceptibility loci for inflammatory bowel disease and highlight shared genetic risk across populations. Nat Genet. 2015;47(9):979-986. doi:10.1038/ng.3359
本成果は、遺伝情報を合わせもつIBDの患者パネルを活用することで、従来カバーすることが難しかった治験・臨床試験におけるIBD患者さんの試験参加者を募集する事が可能になるだけでなく、患者さんが感じる主観的な薬剤の満足度や生活習慣と遺伝子変異の相関を調べることで、IBDの発症メカニズムの解明や新薬の開発に貢献できると考えられます。
また、本取り組みを応用することで、治験・臨床試験において遺伝情報が有用とされる他疾患(アルツハイマー型認知症/パーキンソン病/NASH(非アルコール性脂肪性肝疾患)等)においても、効率的な試験参加者の募集に貢献することができると考えております。